専門外来のご案内
日本医科大学形成外科においては、乳房全摘後の乳房再建を行っています。
乳がんの治療に伴い乳房を喪失した場合、様々な場面において患者さんにおける生活の質(Quality of Life, “QOL”)が治療前と比較して低下することが想定されます。失われた乳房を作り直す工程を「乳房再建」と呼び、われわれ形成外科医は乳がん術後(あるいは同時)に乳房再建を行うことで、乳房の喪失感をやわらげ、患者さんのQOL向上の一助とすることを目的に当院乳腺科と連携を図りながら乳がんやその他乳房疾患の治療の一翼を担っております。
乳房再建にはさまざまな方法がありますが、以下にわれわれが行っている再建方法をご紹介させていただきます。
乳房再建を考える場合、以下の2点がポイントとなります。
① いつ再建するのか(乳房再建の時期)
② 何で再建するのか(乳房再建の素材)
時期に関しては、乳房切除と同時に再建を行う一次再建、乳房切除後しばらくして再建を行う二次再建があります。
一次再建の長所は1回の入院・手術で再建まで至ることができ、乳房の喪失感が軽くなります。短所は手術時間および入院期間が長くなる可能性があります。一次再建はさらに一次一期再建と一次二期再建に分かれます。一次一期再建とは、乳房切除と乳房再建が初回の手術で完了するものになります。対して一次二期再建は、乳房切除と同時に乳房内に組織拡張期(エキスパンダー)を入れ、時間をかけてエキスパンダーを拡張させることで乳房に十分なスペースを確保させた後に改めて乳房再建を行う手法で、エキスパンダー挿入後は退院まで通常約7〜14日ほど要します。
二次再建は乳房切除後しばらくして乳房再建を行う方法であり、乳がんの治療と再建を分けて考えることで余裕を持って治療にあたることができる利点があります。短所としては乳房が一度切除された状態を目の当たりにするため乳房の喪失感があり、かつ複数回の入院・手術が必要になることです。
われわれは、一旦他院で初回手術を受けられた一次二期再建および二次再建をご希望の患者さんへの再建も随時受け付けております。
乳房再建は、大きく分けて(1)人工物(シリコンインプラント)で再建するのか、あるいは(2)患者さんご自身の組織(自家組織、あるいは皮弁と呼びます)を用いるのか、の2通りがあります。
乳房切除と同時にインプラントを乳房内に留置して一次一期再建を行う場合と、乳房切除と同時にエキスパンダーを留置し、乳房が十分な伸展性を得られた(通常初回手術後約3〜6ヶ月)ところにインプラントを留置して一次二期再建を行う場合があります。両者の選択は乳房形態や乳房切除範囲によって規定されることが多いため、術前に形成外科医と十分に協議して決定する必要があります。通常は術後5〜10日程度での退院となります。
患者さんご自身の身体の一部(皮弁)を血液が通った状態で乳房内に移植し再建する方法です。主に腹部から皮弁(深下腹壁動脈穿通枝皮弁)を採取し移植する方法と、背部から皮弁(広背筋皮弁)を採取し移植する方法があり、いずれも当院においては全国でも有数の症例数となっています。インプラントと違って自分の組織なので安定しており、感染にも強いのが特徴です。
[深下腹壁動脈穿通枝皮弁]
深下腹壁動脈は腹部の皮膚および脂肪を幅広く栄養する血管であり、これを腹部の皮弁に付着させて採取し、胸部の血管と顕微鏡下に吻合する(血管吻合)ことで血液の通った組織として乳房再建の素材に用いる手法です。腹部から採取できる皮弁のサイズはとても大きく、片側乳房再建の場合は通常半分は余剰となってしまいます。両側乳房再建の場合は皮弁を分割してそれぞれの乳房内に留置することも可能です。また腹部の傷を閉じる際に臍(へそ)は腹部の皮膚をくり抜いて新規に作成します。通常手術時間は7〜10時間で、術後7〜14日程度での退院となります。
[広背筋皮弁]
広背筋は背部に存在する広大な筋肉であり、この筋肉およびその上に乗る脂肪・皮膚を合わせて血管がつながったままの状態で乳房内に移動および移植させて乳房再建を行う方法です。
通常手術時間は4〜6時間で、術後7〜14日程度での退院となります。
[その他]
乳房切除に伴い乳輪・乳頭が併せて切除となった場合の乳輪・乳頭の再建も行っております。局所麻酔下に乳房皮膚を細工して乳頭を形成し、乳輪は皮膚移植を併用して作成することがあります。色調に関しては医療用タトゥーを用いた調整もご提案させていただいておりますが、保険外診療となりますので、希望される場合は担当医へご相談ください。
乳輪・乳頭が温存されている場合において、左右の位置調整を行う手術も希望に応じて対応できる場合がございます。状態によっては保険外診療となるケースもございますので、こちらについてもご希望の際は担当医へご相談ください。